TEA and COFFEE Trade Journal

■ 2001年4月号掲載記事 / 至高の鳳凰茶

西側諸国の我々にとって烏龍茶は飲みなれたお茶かもしれません。しかし、中国で烏龍茶というとお茶の種類のことで、種類ごとにまた何千というバリエーションがあります。香港にある“MingCha ミンチャ”の経営担当者レオ・クワンさんが、鳳凰烏龍茶というクオリティーの高いお茶の製造方法について説明してくださいました。

茶は中国で昔から農産物として作られてきました。広大な領土のため地理的、文化的にも多様で、今でも中国の人たちがいろんな言語を話すように、茶の木や茶の流儀そして製造方法も多種多様です。個人的に、烏龍茶はいろんな意味で素晴らしいお茶だと思っていて、非常に親しみを感じています。ここでは通 常の特級烏龍茶の製造方法、そしてあまり有名ではありませんが非常にクオリティの高い、鳳凰烏龍茶に焦点をあて詳細まで追っていきます。

烏龍茶の製造を細かく見ていくと、茶木の種類や気候、それにどんな味の烏龍茶にしたいかによって製造方法が驚くほど違います。ここでは、中国南部で昔から行なわれている典型的なお茶の製造工程を説明します。

鳳凰山(Phoenix Mountains)

福建省と広東省の北側は地理的につながっています。どちらも中国南東部の海岸沿いの国境をスクリーンのように縦断している、南部の山脈地帯の一部です。この地域は亜熱帯気候で、太平洋から湿った空気が吹き、標高が高く、おいしい茶を栽培するのに理想的な環境です。この山脈地帯の一角、広東省潮安県の北側にある鳳凰山で、鳳凰茶が栽培されています。この地方の言葉で"お茶を飲む"ことを (食茶),といい、直訳すると“お茶を食べる"という意味になります。ここでは大部分の人が、茶産業で生計をたてています。

お茶の木が生えているのは標高1300mの、大きな黒い岩と赤みがかった黄色いさらさらした土壌の傾斜の険しい台地です。朝はそんなに気温が低くありません。夏だと11℃から19℃くらいでしょうか。 ただ、じめじめした空気と霧がたち込め、重労働のお茶摘みをする人にとっては、肌寒く感じられます。彼らは重い籠をかつぎ、朝露で一日中濡れた不ぞろいな岩がごろごろした険しくせまい道を移動します。

宋の末裔(Descendants of Sung) 

今から7世紀まえ、宋の時代のラストエンペラーは、現在では風光明媚な都市になった杭州近くの城で平和に暮らしていました。しかし蒙古人が侵攻してきたため、仕方なく南方へ逃げていました。逃亡は何ヶ月にもわたり、逃げた距離はおよそ2、3000マイル。疲れ果 てて、のどがひどく渇いていました。そこで召使は地元の人に飲みものがほしいと頼んだところ、透き通 った明るい琥珀色のお茶を出してくれました。物語によると、皇帝はそのお茶で元気を取り戻し、のどの乾きをいやしたと言われています。

ある茶園の右上に地元によくある大きな黒い岩があり、“宋茶”という字が刻まれています。そこで収穫された茶は、毛沢東に献上されていました。 共産党主席をたたえ特別に "東方紅" と茶園の名前を変えました。

700年前の木になると、若い木ほどたくさん収穫できませんが、並外れて茶葉の品質が良く、特権階級の人々のためだけにリザーブされています。刈り込みは、その木の寿命を延ばす一般 的な方法ですが、同時に収穫量も増え、時には香りがよくなることもあります。私達が扱っている茶葉は、そういった評判の高い古い木から収穫しています。

残念ながらその村は、宋の皇帝が素通りしてしまいましたが、そこで鳳凰茶が作られています。そこは宋の皇帝が来る2、300年もまえからお茶を作っていました。皇帝がそれからどうなったのか興味のある人のために話をしておくと、皇帝は香港へ逃げ、崖から投身自殺しました。山脈から離れ、有名なお茶を飲んだ地点から2、300キロほど南へ行ったところでした。

西洋の生物学的システムからお茶の木を分類すると、この地方で見つかっている茶園の木はすべて同じ種類になってしまいます。しかし地元の茶専門家は何十もの種類に分別 していて、それぞれ独自の香りや味わいを持っています。鳳凰から少し北へ行った福建省も同じで、特に武夷山では、何百という種類のお茶の木から、違う味のお茶が作られています。鳳凰山周辺のお茶の木は、カメリアシネンシスという系統で、野生の木と非常に近く、我々の祖先が何百年も前に飲んでいたお茶の味と同じものかもしれません。

採摘と萎凋(Picking and Drying)

この地方では、熟練した職人が茶摘を行ないます。摘み方や茶摘のタイミングによって、品質に差がでるからです。

品質のいい鳳凰茶は、たいてい天気のいい日の正午少し前または正午をすぎてすぐに茶摘を行ないます。茶葉の細胞が完全に開いて乾燥し、良い茶葉になるのに充分な時間が必要なのと、さらに摘み取った後、茶葉を日干しで1、2時間乾燥させるための時間が必要だからです。"龍井"といった緑茶は、春のまだ冷たい外気の中で、若い新鮮な茶葉のうちに摘み取られますが、鳳凰茶は全く異なります。鳳凰茶をはじめとした烏龍茶は、化学的バランスをとり品質を最大限に引き出すように、茶葉がある程度の大きさまで成長してから摘み取ります。このため春摘みの緑茶は、温かい気候で作られている烏龍茶よりもかなり摘み取り時期が早くなります。

収穫した茶葉は間隔をあけてざるに並べ、何度か茶葉をひっくりかえしながら、乾燥させます。その後日の当たらないところへ移動させ、次の工程の前に茶葉を冷まします。大量 生産とは異なり、品質のよい鳳凰茶は、茶葉を摘み取ったらすぐに加工します。新鮮でナチュラルな状態を保つ秘訣です。輸送のため収穫した茶葉を1箇所に集めるような工場はありません。むしろ生産物は、小さな茶園をもつ地元茶職人の技術のたまものです。技術を受け継ぎ、繁栄させるため、若い人達にこの技術に魅力を感じてもらうことは大事なことです。

揺青(Fermentation)

茶葉の熱を取り、ふるい分けを行なった後(鳳凰では日が落ちるのが早いので、作業はたいてい夕食後に行なわれます)、部分発酵に入ります。この工程は夜通 し7〜9時間かけて行ないます。熟練した職人が、1〜2時間のインターバルの間に5分間ほど茶葉を転がします。回数を重ねるごとに手を徐々に強く動かします。この工程のことを英語では“rolling”と呼んでいますが、正確にはそうではありません。少量 の茶葉を両手で持ち上げ、ゆっくり落とすという一連の動作です。中国でお茶を作っている人達は、「茶葉を揺らす」と呼び、地元の人達は「茶葉をこする」。Rolling(転がす)というよりはもっと控えめな動作です。同じような状態にしようと、機械では転がすような動作になっていますが。

こうやって茶葉をもみこむことで、互いにこすれ合い、細胞壁が壊れ、分泌液と酵素やクロロフィル、ポリフェノール、炭水化物といった物質が化学反応を引き起こします。ポットでお茶を入れた時にそれぞれの茶葉のまわりに薄く赤みを帯びたふちができるのが何よりの証拠です。

揺青は烏龍茶特有の香りや味をよくするための最重要工程です。茶摘みの前と茶摘中の天気、天日干しの状態、温度や湿度といった条件が、茶の品質に大きく影響します。あわせて揺青の程度や方法も、収穫した茶葉の状態を最大限に引き出すために毎回調整します。加工の工程で茶葉の状態を判断し、的確な調整をするためには、経験が必要です。

殺青と揉捻(Fry Drying and Twisting)

朝食の時間までに、次の工程にすすむかどうか決定し、見習の職人が後を引き継ぎ、熟練した職人はしばしの休憩。

次は熱を加えて茶葉の発酵を止める工程です。発酵した茶葉を一度に1kgほど中華鍋の中に入れ、200℃で炒ります。熱くなりすぎないよう勢いよく茶葉を動かします。この工程は手短にすませます。茶葉を取り出す時は、タイミングというよりは香りで判断します。 

こうやって熱を加えることで、水分量が減り茶葉がやわらかくなり、茶葉が捻りやすくなります。最高級の鳳凰茶は、きつく捻られているので、抽出すると徐々に香りが漂ってきます。人気のある伝統的な工夫茶には、このきつく捻られた鳳凰茶がぴったりです。工夫茶とは、少ない量 のお湯で素早く何度も抽出し、熱いうちにお茶を楽しむことで、香りと味を最大限に楽しむスタイルです。

小さな茶園になると、捻る工程はほとんど小型機械で行いますが、その一方で、希少な茶葉は、今でも昔と同じように手または足で捻ります。茶葉に圧力を加えると、油分と液分が葉の表面 に集まって香りがよくなり、それぞれのお茶の特徴をつくりだしてくれます。

焙煎(Bake Dry)

収穫期は茶職人にとって非常に苦労の多い時期です。茶葉を捻った後で、性格のおとなしい男性が (おもしろいことに、我々の知っている茶職人はほとんど性格のおだやかな人です)茶葉の香りを素早くチェック。 ここで茶葉の状態に納得いかない場合は、もう一度熱を加え、捻る工程を行なうよう見習職人に指示をだすこともあります。

合格した茶葉は、5〜10分間あぶって、1〜2時間インターバルを置く、その作業を4回行います。温度は、最初が120℃で、徐々に下げていき、最後は60℃まで下げます。あぶる時は茶葉を竹の籠に入れ、まばらに並べます。最終の火入れの前に、さらに捻る作業をすることも。品質を良くするため時には必要になってきます。燃料は木炭のみ使用します。 

火入れする時は、石炉台の上に木炭をのせ、その上に竹籠を置きます。竹籠は円柱型で上下がラッパ状になっています。その竹籠の中ほどに茶葉をのせた「ざる」をセットして弱火にかけます。

伝統(A Living Tradition)

何世紀もわたってお茶を飲んできた生活習慣の一部に、鳳凰烏龍茶があります。近代歴史の混乱にも妨げられず、この地方の人々はいきいきと生活し、自然や自分の体、健康に対して深い尊敬の念を抱いています。おだやかな老人のウェンさんや徹底主義者のチャンさん、彼らが暮らしているところでは人々が自然を信仰し、余計なものをもたずに生活しています。缶 に入った飲み物やファーストフードなんてありません。ワインの熟し具合や狩猟の肉の食べごろや、いかに空気が澄み渡り、静かに昼寝ができる環境か、それこそ彼らが大切にしていることで、彼らの考える生活の質なのです。

味と特徴(Taste and Character)

鳳凰茶は収穫して3ヶ月から2年までが最高の状態と言われていますが、信じられないほど長く保存できます。古い鳳凰茶のほうが好きだという人もいるくらいです。古い鳳凰茶はやや茶色がかっており、5年から8年ものが市場で高値がついています。ただ武夷茶のほうが古いお茶に高値がつくようです。

烏龍茶の簡単な違いとして、茶色がかっていない烏龍茶を“ライト”、茶色がかったものを“クラシック”と呼んでいます。高品質の中国茶を扱う "MingCha(ミンチャ)" ブランドの製品は、ラベルに色印をつけて区別しています。その印で収穫の季節や、収穫したお茶の木の種類も分かります。例えば 芝蘭香、蜜蘭香、八仙、さらに非常にポピュラーな黄枝香。このお茶の木の種類は、すべて宋の時代に祖先をもつ木で数に限りがあります。

自由経済の政策が行なわれるようになってきて、剪定を何度も行い苗木も大事に扱ったことで、この3種類のサラブレッド種のお茶が一般 の人に手のとどく値段となり、多くの人に飲んでもらえるようになりました。2、30年前には想像もつかないことだったでしょう。私も、この素晴らしいお茶を一般 の方に広める仕事に携われたことを誇りに思っています。しかしなによりも、毎日この最高級のお茶を楽しむことができる−。これこそ幸せです。

本文は『TEA&COFFEE TRAE JOURNAL 2001年4月号』より・・・

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