■ 第二回 シルクロードをたどって

私の旅のテーマは「お茶」です。ある時はお茶の「産地」や「喫茶文化」だったり、そして「お茶が伝わった道」だったりします。 

お茶は海路と陸路によって中国から世界へと広く伝わりましたが、90年台はじめにスタートした私の旅は、まず海路によって伝わったポルトガル、スペイン、イギリス、イタリア、オランダ、フランスといったヨーロッパの国々を訪れました。

1997年6月に東西の交差点といわれるトルコを訪ねたのが24回目の海外の旅。これを境に私の旅は西の国から東の国にへと移っていき、中国へも足繁く通 うことになったのです。

そして2001年5月の終わりに中国の西端、「新疆ウイグル自治区」を旅しました。海路で伝わったお茶は主にティーポットで飲まれ、飲み方自体もそのままの形で伝えられていますが、陸路によるお茶は千変万化といいますか……。




■ 新疆ウイグル自治区

新疆ウイグル自治区で訪れたのは、カシュガル、ウルムチ、トルファン、西安です。西の果 てカシュガルは東西南北の交易の十字路で大きなバザールが開かれます。

この町に多く住むウイグル族の人たちは湖北省の黒茶の茯磚茶(フクダンチャ)を私たち日本人のお番茶のように飲んでいます。

カシュガルの街の茶館では老人たちが、そのお茶が注がれた小さなカフェオレボウルのような器に堅いパン(ナンと呼ばれています)を漬けてやわらかくしてお茶とともに食べていました。その様子はまるで京都人が食べるお茶漬のよう。お茶が生活の中に入り込んでいる証拠です。

この黒茶は、ティーポットの中に茶葉を入れて上からお湯を注ぐだけの飲み方ですが、お茶の量 も少なくほうじ茶のようにうすいお茶でした。


ナンと呼ばれています、とうもろこしの粉や小麦の粉でつくられ、特別 の炉で焼かれています。
あまり水分がすくないので保存がききます。
一番右の四角い包みが湖南省の茯磚茶という黒茶で、色々な場所で売 られています。 このお茶はこのエリアではかかせない日常茶です
カシュがルの町の茶館でのんだお茶です、とても素敵なおじいさんが これにナンを浸して食べていました。カザフ族のナイ茶と同じ 茶葉ですがまったく飲み方が違います。懐かしいお番茶のようです。




下の部分には炭とお湯が入っていて、上部は湯気で暖められます。煮詰まったお茶は下のお湯で割ります。トルコやロシアトでは上にポットがのっていますが、ここではちょっと趣がちがいます。サイズもおおきな銅製のやかんがポットのかわりに置かれていました。やはり日本のお番茶のようにカブ飲み?


これは、ウルムチの南山牧場でいただいたナイ茶(ミルクティー)。横にあるのは太い麺を揚げたようなお菓子でかりんとうのようなものもありました。
一方、新彊ウイグル自治区の東にある中心都市ウルムチ郊外には、テントで生活しているカザフ族がいますが、彼らの黒茶の飲み方はウイグル族とは異なります。

黒茶を薬缶 に入れてお湯を注いで塩を加えて少し炊き、さらにミルクを入れて炊きます。

このようなミルクを入れるお茶を中国では「ナイ茶」と呼んでいます。

私たちが飲んだのは牛乳でつくるものです(ミルクはラクダのものや羊のものなどいろいろあるといいます)。そのお茶をボウルに入れスープのように飲みます。

砂糖を入れて飲んだり、堅く揚げたかりんとうのようなこの地独特のお菓子と一緒にたべるなどして飲みます。

好みでバターをお菓子に少し付けてスプーンのように回してナイ茶に入れて混ぜ、お茶にバターを溶かし込んだりもします。なかなかおいしいお茶でした。

雲南省の紅茶やプアール茶もバザールでたくさん売られていました。羊を食べるので、こんなお茶も日常的に飲まれています。
また新疆ウイグル地区では紅茶も飲まれています。カシュガルもそうでした。

中国では紅茶の産地はありますが、中国人はごく一部の土地を除いて紅茶を飲む習慣はありません。

この地で飲まれているのには理由があります。西欧に出て行ったお茶がシルクロードを通 って中国でもっとも西寄りのこの新疆に逆輸入されたのです。現地の人は西から入ってきたと口を揃えて言っていました。


バザールのなかのスパイス屋やお茶屋、薬草屋に植物の種が入っ て売っているような袋で数種類の薬草やスパイスがブレンドされて売っています。

お茶と 混ぜたり、このままお湯で少し炊いたりして飲むそうです。私はカシュガルの夜の屋台で大変アルコール度数の強い’イリ’という焼酎のようなお酒を飲むときに飲むといいと教えられ飲んでみました。ちょうどインドのチャイにいれるマサラのようなものでした。茶葉は 入ってなくてカシュガル風’十六茶’というような感じでしょうか!!

またウイグル人はイスラム教徒で宗教上マトンをよく食べますが、マトンには紅茶がよく合うそうです。タンニンを多く含む紅茶は油を流し、最適なのかもしれません。

ところが飲み方は中国風なのです。紅茶はガラスのコップに茶葉を入れてお湯を注ぎ、茶葉が沈んだ頃合を見計らって上澄みを飲む手法。抽出法はトルコやモロッコとちがってグラスそのものを使い、中国の緑茶を飲むときと同じなのがおもしろいところ。

さらにカシュガルは「薬茶」の有名な町でもあります。いろいろな薬草がブレンドされたものでハーブティーのように飲まれています。紅茶、黒茶、薬茶と様々なお茶が日常に組み込まれていて、印象深い街でした。

新疆ウイグル地区は少数民族が多く混在する地域で、民族それぞれに独特の飲み方があります。お茶はシルクロードの陸の道を長い歳月をかけてたどるうちにその民族、その土地の生活にあった飲まれ方が生まれてきたのだと実感しました。

隣の陜西省の首都西安では一般的に紅茶と緑茶両方が飲まれています。ここもやはりマトンをよく食べるので紅茶は日常的に飲まれているそうです。

いろいろな国にそれぞれ合った飲み方、味わいがあり、まだまだ興味深いものがあります。私のお茶の旅は当分終わらなさそうです。


ナイ茶の入れ方
  1. 茶葉とお湯をいれこんなに塩を入れていました、この後すこし炊いて牛乳を入れます。 乾燥している熱い国々にいきましたが砂糖を入れる国が多いですがここでは塩をいれ、砂糖やバターを好みで茶碗のなかに入れていました。
  2. 牛乳を入れた後、一度ボウルにそそぎ、また戻します。
  3. 日本でも茶葉が開いてなかったり、浮いていたりすると土瓶で戻したりすることがありますが、どこの国も同じですね!!






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